出産、子育て、そして演奏活動に追われ、久々の新コラム投稿となりました。皆さまご存知の通りコロナ感染の予防のため、演奏会は全てキャンセル。そしてバイオリンのレッスンを含め、お子様が受けるレッスンやクラスはほぼ全てがZoomなどのアプリを利用したオンラインへと移りました。この予期しなかった事態に突然生活、仕事、勉強のやり方が変化し、子どもから大人までそれぞれ新しい環境に慣れるのに苦労したのは皆さん同感されるかと思います。
当教室でも早速オンラインレッスンを始めました。これを試すのは初めてのことだったのでうまくいくかどうかわかりませんでしたが、他にレッスンを安全にやる方法がないので「やってみるしかない」と生徒さんのご家族のご理解、ご協力をいただきなんとかレッスンを続けることができています。2020年3月から9月までの6ヶ月間の経験から学んだ今現在のテクノロジーを活用したレッスン方法をご紹介いたします。
まず初めに使うツールから。
個人レッスンにはFaceTime。先生と生徒さん双方が iPhone, iPad, iMac などの Apple 商品を使用している場合、FaceTimeが一番効果的です。双方が同時に音を発せられるので、生徒さんが弾いている最中に先生が「ちょっとそこ止まって音を直しましょう。」などとコメントすればちゃんと生徒さんに聞こえます。他にZoomを試してみましたが、こちらは一人ずつしか音を発せられないため、生徒が弾いている最中に止めるには叫んでも何も聞こえず、大きく手をふって「止まって〜!」のジェスチャーをするしかありません。その他FacebookやGoogleのビデオチャット, Skypeなどの方法もありますが、そちらは試していないのでコメントできません。これらのビデオチャットはアカウントを持っていないと使えませんが、Apple 商品を使用するご家庭は非常に多いのでより使いやすいでしょう。
ユースオーケストラのリハーサルや発表会などには Zoom。Zoomは複数の人が同時に参加できるので便利です。しかし先ほども申し上げた通り一度に一人ずつしか音を発せられないので全員で一斉に音出しはできません。ではどうやってリハーサルするのか?先日ビオラセクションの練習をやった時に試した方法は、リーダー以外の全員にマイクを消してもらうことでした。そうするとリーダーの音だけが全員に聞こえます。そしてリーダーがメトロノームをつけて「いっせいの!」で一緒に弾きます。少し慣れてきたら全員が順番にリーダーの仕事を受け持ちます。もっと慣れてレベルが高くなってきたらメトロノームなしで、リーダーの音を聞き、映像を見るだけでアンサンブルしてみるといいでしょう。多数がマイクをONのままにすて発表会などすると演奏者以外のひとのノイズが漏れて映像がそちらへ移ってしまったりするので演奏者以外はマイクをOFFにすること必須。
発表会のピアノ伴奏。コンチェルトやソナタを弾く場合、ピアノ伴奏なしで弾くのは寂しいだけではなく、ほとんど意味がありません。しかし何ヶ月も一生懸命練習してきた成果を全く発表できないのも残年なので私は考えました。なんとかリモートで伴奏ありの発表会ができないものか、と。以前にもお世話になったピアニストにお願いして伴奏パートを録音してもらい、生徒には発表会でその事前に録音されたピアノに合わせて演奏してもらう、ということにしました。最初に生徒が演奏するおおまかなテンポを伝え、録音してもらいました。しかしこの1回目の録音ではアラルガンドの間の取り方が違っていたこと、そして前奏なしの曲だったため同時にスタートできない、などの問題がありました。これらのポイントをピアニストに伝えた上、前奏も加えていただき、生徒の演奏を録音したものも参考にしていただくためにメールで送信。そして2回目の録音をお願いしました。数点のポイントを変更してできあがった伴奏録音は1回目と比べて生徒にとってずいぶん弾きやすくなったようでした。それでも音楽は一緒に息を合わせて弾くことが一番自然なことなのでパーフェクトではありません。しかし現在の状況下で前進するためには可能な範囲でベストをつくす!という気持ちでこのピアノ伴奏録音を使って発表会を行いました。演奏は大成功。やはり発表会では伴奏必須です。
音声について。
上記でご紹介したツールはそれぞれ便利ですが、どれも音が相手に伝わるまでに微妙な時差が発生します。そのため個人レッスンであろうが、グループレッスンであろうが相手の音を聞きながら同時に演奏するのは無理です。難しいのではなく、無理です。しかしレッスン中に言葉だけでは伝わらないことがあります。先生がお手本に弾いてあげても小さなお子さんにはわからないこともあります。どうしても生徒さんが先生とナマで一緒に弾いてみるのが効果的という場合は生徒さんにマイクを消してもらい、こちら側でメトロノームをかけて「いっせいの!」で一緒に弾いてみます。こちら側には生徒さんがどれだけ弾けたのかはわかりませんが、先生の演奏のエネルギーやテンポ感、タイミングなどは伝わります。
また、より良い音声を求める場合はご使用のデバイスに取り付け可能なマイクを購入して接続すると良いでしょう。
アンサンブルをする方法。
音楽をやる醍醐味は他の人と一緒にアンサンブルし、演奏することですね。しかし上記で申し上げた通りリモートでのオンラインレッスンでは無理なことです。(少なくとも2020年現在のテクノロジーでは。)3月、4月のロックダウンが始まった当初、生徒のモチベーションが下がっているのが毎週一度のレッスンでスクリーン越しに伝わってきました。普段とは少し違ったことを試してみようと、あまり難しくないバイオリンのための二重奏曲をいくつか与え、両パートを練習させ、Acapellaというアプリを利用して一人で2重奏、3重奏曲を録音するというプロジェクトを試してみました。このアプリを使うと一人で重奏(アンサンブル)できるのです。数曲録音させ、おかげでまた楽しんでバイオリンの練習に取り組むことができるようになったようです。
複数で同時に演奏するのは現在のテクノロジーでは私たち一般市民に方法がありません。そのため、様々なオーケストラやグループで試されたのはメンバーそれぞれが会社から配信されたテンポクリックをコードレスBluetooth のイヤホンを使って聞きながら合わせ、自宅で自身を録音・録画し、後日ビデオエディターがそれらを総合編集するという方法。できあがったビデオはFacebookなどのソーシャルメディアで公開します。事前に録画されたビデオは編集者の個性が生かされ、オーソドックスなボックス式のものからクリエイティブなビデオまで様々なことが可能です。
例えば Mostly Mozart Festival Orchestra
そしてサンフランシスコバレエ団
20年前だったら不可能だったことがシリコンバレーが開発・発達したテクノロジーのおかげでリモートでも色々なことをできるようになりました。特に今年のコロナウィルス感染防止のためのロックダウンでは活用できて非常に便利でしたね。これを経験したおかげでこれまでは雪や台風などで外に出られない日はレッスンをキャンセルせざるを得ませんでしたが、普通の生活に戻ってもオンラインレッスンを利用できることがあるでしょう。しかし同じ部屋で一緒の空気を吸って、息を合わせ、目と目でコミュニケーションをとりながらする演奏とは全く違います。ワクチンが開発され全市民にいきわたって一日でも早く平常な生活に戻れるといいですね。