長いことバイオリンなどの楽器のレッスンを続けているお子さんの中にはやめたいと時々言うお子さんがいるかと思います。今回はニューヨーク・ビズさんのウェブサイトでの掲載が最終回となるため、お子さんがバイオリンをやめる時期についてどのように対応するべきか、私の個人的な考えをお伝えしたいと思います。
こちらのコラムでも度々申し上げましたが、バイオリンを習う過程は非常に地道な練習を毎日積み重ね、それでも大きな目に見える進歩が簡単に現れるものではありません。辛抱強さが強いられる楽器です。長い年月の間に練習やレッスンが楽しく感じられる時期もあれば、どんなに頑張っても全然上手くなれない、などと感じる時期もあり、山あり谷ありのプロセスです。そんな中でお子さんがバイオリンをやめたいと思うことがあるのは自然なことです。しかし、そこで親としてどう対応するべきなのでしょう?
そこの判断はお子さんの年齢やレベル、学校の勉強、家庭事情などより、答えはそれぞれ異なります。でも、基本的に私は相当な事情がない限り、お子さんがちょっとやめたいとか、練習が苦痛でイヤだ、などと文句を言ったからといって簡単にやめさせるべきではないと考えます。子どもはまだ人生を数年しか経験していない未熟な人間です。まず、せっかくお子さんの将来のためにバイオリンレッスンに投資をしているのに、たった数年でやめるのは非常にもったいないです。3〜4年かそれ以下しかレッスンを受けなかった場合、バイオリンとしては非常に短期間で、その間に得たものは大人になる前に忘れ去られてしまうでしょう。それではせっかく投資したお金は水の泡です。
また、保護者の方や先生が簡単にやめさせてしまった生徒さんは大人になってから「やめなければよかった」と後悔の言葉を皆そろって口にします。ハーレムの音楽教室で教えていた頃、たまにそこの卒業生である若者が演奏会などに立ち寄ることがありました。教室創設者である年長の先生にする質問はみんな同じ。”Why did you let me quit ?! ?!”「どうしてやめさせてくれちゃったの?!?!」大人になった彼らは自身が子どもの頃、バイオリンを習えるという環境にどれだけ恵まれていたかを今になって実感し、理解するのです。しかし、時すでに遅し。大人になった今は大学の勉強や仕事に追われる毎日でバイオリンどころではありません。
実は私も子どもの頃の何度もやめたいと親にせがみました。毎日の練習が面倒で、放課後は友達と遊びたくてバイオリンの練習が邪魔だと感じました。しかしとても厳しかった両親は絶対にやめさせてくれず、よくケンカになりました。当時はそんな愛を理解できない少女だった私も、今では頑固な方針を貫いた両親に感謝しています。子どもの頃、毎日の練習が苦ではあったものの、バイオリンを弾き始めれば心を込めて演奏した記憶があります。そして発表会などで演奏をしたら達成感を感じ、うれしく思いました。どんなに練習が面倒だと文句を言っても、親や先生は私のそういう楽しんでいる面を見ていたのだと思います。
先生の側から見ると、まれにバイオリンをやめて他の楽器や習い事に挑戦してみた方がいいのではないか、と感じる生徒さんに出会うこともあります。レッスンに来ても体全身から弾きたくないオーラが出ている子は無理に続けさせる必要はないと思います。周囲の大人が一生懸命応援しても本当に苦痛な気持ちでバイオリンを弾く子はなんだか先生も不憫に感じますし、本人にとって生産的ではありません。
よく保護者の方に相談を受けるのは「子どもがバイオリンをやめたいと言っているけれど、やめさせてあげるべきかわからない」というもの。その生徒さんがレッスンに来た時に先生にもやめたいという意思を直接伝えたり、数週間続けて全く練習をして来なかった場合はやめ時かもしれません。でも、自宅で両親にはやめたい!と、ダダをこねても先生の前に行けばしっかり全力を発揮して音楽を楽しみ、レッスンをがんばれる子は本当にやめたいと心の芯から思っていないでしょう。この場合はやめさせないのが親の愛です。
子どもの頃からバイオリンを始めてやめずに続け、大人になった方が「バイオリンをもっと早くやめればよかった」などという話は聞いたことがありません。プロであろうが、アマチュアであろうが、楽器を弾いて音楽楽しめるという事はお金に換えられない価値があります。家庭での毎日の練習の監督も楽ではありませんが、悩んでおられるご家庭でもぜひがんばって長いこと続けていってほしいと思います。
◇ ◇ ◇
ニューヨーク・ビズさんでは長いこと大変お世話になりました。こちらで当教室を知ってくださった方や、コラムを毎回読んでくださる読者様も今後も教室のウェブサイトで続けていきますので、これからは直接、chihirofukuda.comやfacebookの教室ページをフォローしていただければありがたいです。
*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。