コラム 〜第17回〜

こちら米国では小中学校の音楽の授業でバイオリンなどの弦楽器を選択してグループレッスンを受けられる学校がたまにあります。70年代までは公立校でこのようなプログラムが盛んだったそうですが、80年代に政府から出される音楽教育の資金が大幅にカットされてからは珍しいことです。私がリンカーンセンターの職場で先輩方の弦楽器奏者に聞くと子どもの頃、学校の音楽の授業でバイオリンなどの弦楽器を始めたのがきっかけとなって現在プロとして活躍しているという方が何人かいらっしゃいます。

最近は小中学校の音楽を含む、アート系プログラムが大変少ないため、それを補おうと様々な非営利団体(Non Profit Organization)と公立校が組んだ教育活動が数多く行われています。こういったNPOが音楽に飢えている学校へ行ってバイオリンのグループレッスンを提供するのは一見、喜ばしいことのように思えるのですが、そこには一つ大きな落とし穴があるのです。

私自身、ニューヨーク市内でバイオリンを教えるNPO教室に10年以上所属していた経験があるため、様々な状況を目にしてきました。個人的にバイオリンを習いにいけるほど経済的な余裕のない家族にとってこのような団体は素晴らしいプログラムを提供しているといえるでしょう。しかし、残念ながら先生のクオリティーがマチマチで、必ずしも良い先生に当たるとは限らないのです。

私が以前所属していた某教室では基礎を大切にし、大人数を一斉に教えるシステムを年長の先生が確立し、若く新しい先生をトレーニングし、伝授していたため、比較的まともなグループレッスンが行われていました。私が基礎を大切にし、急がず丁寧なレッスンを基本としている現在の考え方や方針はそこでのトレーニングに大きな影響を受けたと思います。

しかし、きちんとしたシステムなどなく、トレーニングもせずに突然バイオリンを触ったことのない20人もの小学生のグループを、教える経験のほとんどない若い先生に任せてしまうNPOは非常に多いのです。こういった団体はトップで判断を下す方が音楽教育やバイオリン教育についての具体的知識もなく、先生の雇用など様々な判断を下しているからでしょう。基本的にこのような団体は「子どもへの音楽教育を発達させたい!」という素晴らしい目的を掲げて活動しているのですが、バイオリンを教えることの複雑さと子どもがバイオリンを習うことの大変さの理解に欠けているのです。また、芸術系のNPOはほとんどの場合、残念ながら資金不足でギリギリのオペレーションを続けているため、先生に支払われる賃金は安く、時給制。そのため経験豊富な先生や、才能のある先生はもっと条件の良いところへ移ってしまったり、演奏活動の幅を広げていく方向へ進みます。こういった状況のもとで学校のグループバイオリンレッスンを受けるお子さんは必ずしも安定した条件でバイオリンを習えるとは限りません。もちろん良い先生に当たることもあるでしょう。でも、無料・低価格で提供されるからといって、バイオリンを習うのに一番良い選択肢とは限らないのです。

学校で行われるグループレッスンの良い点は、クラスメートとの仲間意識が高まり、学校内のコンサートなど、共通の目標へ向かって一緒になってがんばれることでしょう。カジュアルにバイオリンを習って適当に楽しめれば良い、ということであれば学校での無料グループレッスンで充分かもしれません。しかし、お子さんにきちんとバイオリンを習わせたい、という思いがあればそれだけでは不足になるかもしれません。基本的な正しい姿勢や細かい音程などをきちんと習うには個人レッスンを強くお勧めします。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。