毎週、レッスン時に私が一番大切にしているのは生徒さんが自分の力で考えて問題解決をできるよう、導くことです。お家での練習をする時、先生はその場にいません。レッスン中に先生が生徒の姿勢や、弓の持ち方、音程などなどを指摘して直すことは簡単です。しかし家で練習している時に細かい間違いを指摘してくれるプロの先生はいませんね? ですから生徒さん本人が自分で考えて間違いを直していく力を付けることが大切です。
本人がどこまで自分の力で問題解決できるかは年齢や経験度によって差がありますが、どの年齢でも、一つ、二つ、何かしら自分で気付ける部分はあるはずだと私は考えます。
例えば音がギコギコしてきれいに出なかった場合。その時に“きれいな音が出ない”ということに気付くはずです。気付いていなかった場合はレッスン時にそこへ注意を導きます。そこで先生が「もっときれいな音で弾きなさい」と指摘するのは簡単なのですが、そうすると“何が問題なのか”とということに対する答えをばらしてしまうことになるので、代わりに「今の演奏でうまくいったこと、もうちょっと良くしたい部分はある?」と聞いてみます。そうすると生徒さんが自分の演奏の出来がどうだったかを考え始めます。大概この質問をすると4、5歳の幼い生徒さんでも「音がきれいに出なかった」などといった、音色に関連した返事が返ってきます。期待していた返事がなかった場合は「音色はどうだっただろう」といった質問をして考えてもらいます。するとほとんどの場合、「いい音が出なかった!」という返事が返ってきます。この答えが返って来たら一歩、進歩と考えていいでしょう。
問題を発見、把握できたら次に解決法を考えてもらいます。滑らかできれいな音にするには物理的に何に気をつけなければいけないか、1年以上レッスンを受けているお子さんならその答えを知っていますが、簡単そうで難しいものです。楽器の難しさは頭で理解していることを体の動作に繋げること。バイオリンを含め、楽器を演奏するとき、体の動きに限らず、目で楽譜を読むこと、音程・音色、リズム、テンポ等、耳で聞くことも必要なので大変複雑です。
スポーツをやるにしても同じだと思いますが、最終的にバイオリンがうまくなるには難しい部分を何度も繰り返し練習するしかありません。その難しい部分を自分で見つけ、どのような練習法で弾けるようにしていくのか、考える力を幼い時期から少しずつトレーニングして身につけることが大切です。
レッスン時に先生が「音色に気をつけてもう1回弾いてみましょう。」と最初から指摘するのは簡単で、その場の問題解決が短縮されますが、それでは生徒さん本人の考える力がなかなか育ちません。そのため、私は弾く時間が少し減っても、レッスン時に一緒に考えることに時間をかけます。そうすると、1週ごとの進歩は少しゆっくり感じられるかもしれませんが、長い目で見れば長期間の進歩は断然早くなるはずです。
やろうとしていることがなかなかうまくいかない子どもの様子を、私たち大人の目から見ると歯がゆく感じることがありますよね? そんなときに手を出して全てを助けてしまうと子どもは新しいことを覚えることができません。少し時間がかかっても急がず、忍耐強く導いてあげましょう。
*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。