コラム 〜第6回〜 『親は子供の手本になろう』

親子でバイオリンを習うことについてよく質問を受けます。

「娘・息子と一緒にレッスンを受けるのはどうでしょうか? 子供にとってプラスになるのでしょうか?」

一言でお返事を申し上げると、「Yes」です。
世界的に有名なスズキ・メソードでは、お子さんがレッスンを始める前に保護者の方がレッスンを受けることを義務付けています。なぜそうするかというと、「子は親を見て育つ」から。お時間のあるときに読んでいただくこともお勧めします、スズキ・メソードの生みの親である鈴木鎮一さんの著書、『愛に生きる 才能は生まれつきではない』。この本の中で詳しく書かれておられます。例えば、日本語を話す家庭に生まれた子が日本語を話すように育つのと同じく、バイオリンを練習する親の姿を見て子どもは自然とそのマネをしたがるようになる。このマネをしたがる、という子どもが生まれ持った本能をうまく利用して自然にバイオリンをしたいという意欲を引き出すことが目的です。音楽家の子どもが音楽家になったり、医者の子どもが医者になることがよくあると思いますが、それは子どもが親を見て(親の影響を受けて)育ったから、という論理です。

当バイオリン教室では保護者の方にレッスンを受けていただくことを義務付けてはいませんが、ご興味のある方にはぜひお子さんと共に習っていただくことを歓迎します。ただ、一つ大人の方が初めてレッスンを受けるにあたって知っておいていただくと良いポイントがありますのでここでご紹介したいと思います。

大人の体は小さな成長途中の子どもと違い、硬くなっています。特に生まれて初めてバイオリンを手にとる大人の方にとっては楽器を構え、弓を正しく持ち、上下に動かす動作はとても不自然に感じるでしょう。考えてみれば、もともと不自然な格好で演奏する楽器なので当たり前なのですが、小さな子どもは体がまだ柔らかいため、比較的自然に慣れることができます。また、私がこれまでにレッスンさせていただいた初めてバイオリンを習われた大人の方の中には「すぐに憧れのあの曲が弾けるようになる」と思われる方がおられました。レッスンを始めて数週間たった頃にやっと開放弦をきれいな音で弾けるようになり、キラキラ星さえもまだ弾けないという現実にガックリ。最初の期待・想像していた感じと現実があまりにも異なり、やめてしまう方がいらっしゃいました。

ギターやピアノと比べて弾くのが難しいバイオリン。「なかなか上手になれない」という現実をネガティブにとらえず、短期間のゴールより1年間諦めず続けるなどという目標をたて、細く、長く続けることをお勧めします。例えば、開放弦をきれいな音で、弓も左右にずれず、真っ直ぐに保って弾けるようになった等という小さな進歩を一つ一つ積み重ねていき、1年間で1〜2曲きれいに弾けるようになろう!という目標。そうやってコツコツ続けられれば、一緒にレッスンを受けるお子さんも諦めずにがんばる親の姿を見て、そのお手本に倣うでしょう。長く続ければ、お子さんとの重奏などもできるようになりますからとっても楽しくなります。それくらい弾けるようになれば親子ともにモチベーションも高くなりますね。

子どもは、親や周りの大人のことを、私たちの想像以上によ〜く見ています。その素晴らしい習性を上手に利用して、私たち大人は良いお手本となって導いてあげられるといいと思います。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。

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