音楽家のバケーション

6月末から2週間ほどバケーションでメキシコへ行って参りました。もともとヨガが好きな私は2年ほど前からメキシコ南部、太平洋沿いにある、トロンコーネス村という人口600人の小さな村のヨガリゾートを見つけて度々そこへ行くようになりました。メキシコはアメリカから近い事と、物価が大変安いのでハワイ等に行くのと比べて半分くらいのお値段で色々な事が楽しめるので音楽家のお財布に優しいバケーション地なのです。

こちらへ遊びに行くのはもう、4回目だったので地元のアメリカ人とも知り合いで行くと久しぶりに会う人たちと楽しく過ごします。今回はこの一年間、生徒を教える事でとても忙しくてヴィオラの練習不足だったので一人合宿のような感覚で楽器持参でトロンコーネス入りしました。現地入りして久しぶりに会う地元友人達に演奏してくれと頼まれ、軽い気持ちで承諾したのですが、気付いたら話がドンドン進み、地元小学校のためのベネフィットコンサートの開催という何だかバケーションのつもりがとんでもない大騒ぎになってしまいました。

 

地元小学校は蒸し暑い中、冷房はもちろんの事、扇風機もなく、みんな元気に勉強しています。でも、資金がなくて壁のペンキはボロボロ、トイレも壊れかけ、鉛筆やクレヨン等も買えない状況でした。地元出身で英語も堪能なレストランオーナーのイザベルが町のレストランやお店へ足を運び、コンサートの宣伝活動を行い募金を呼びかけ、当日は約30人ほどのお客様が会場に集まりました。集まったのは地元に住むアメリカ人やバックパック旅行中の若者など。

ヴィオラソロのリサイタルでベネフィットコンサートは以前、他の都市で演奏させていただいた事がありますが、独りで長時間演奏会のエネルギーを出し続けるのはとても大変なのです。特に私は最近はオーケストラでの演奏ばかりしており、ソロとなると慣れていないので心の準備と毎日の練習の中で集中力の訓練を意識して行います。

本当にバケーションどころではありません!(笑)

プログラムはバッハの無伴奏チェロ組曲第1番、ストラヴィンスキーの「エレジー」、そしてバッハ、バイオリンのための無伴奏パルティータより「シャコンヌ」。

最終的に米ドル約$1300が集まりコンサートは大成功!

この地元にとって$1300とはものすごい大金で、(もちろん私にとっても大金ですが、違うレベルの大金です。)

コンサートの翌日、取りあえずまず購入した扇風機5台を持って小学校へ出張演奏に行きました。

メキシコのこんな田舎ではクラシック音楽など別世界のものなのでしょう。40人ほどの子供達は興味津々で私のバッハの演奏に聞き入っていました。

(残りの資金は壁を塗るためのペンキ、鉛筆、クレヨン、ノート等購入に使われる予定。)

 

完全に仕事を忘れてリラックスするつもりが、結構ハードなボランティア演奏をしてしまい、想像していたバケーションにはなりませんしたが、有意義な活動をする事ができ、すてきな2週間を過ごす事が出来ました。この演奏会をきっかけにたくさんの人と新たに知り合い、つながりが増え、またベネフィットコンサートを兼ねたバケーションをトロンコーネス村でしたいと思います。

 

プロの音楽家として生活するのはとても大変なことです。余程の覚悟がない限り、音楽だけで食べて行くのは苦しいことなので、自分の教えている生徒には正直を言わせていただくと、音楽大学には進んでほしくないと思っています。でも、自分の手で音楽を奏でられるという事はお金や財産とは比較できない価値があります。例え職や全ての財産を失ったとしても音楽は失われないのです。そして時には人を助ける道具にもなります。そういう意味で私は音楽家になった事をとても幸せに感じます。

自分の生徒達にもそういう想いを伝えて行ければ、と感じる今日この頃です。 子供にとってそういう事は分かりにくいですし、毎日の練習はキツいと感じるでしょうからその辺が難しいのですが・・・・。